「50秒の波紋: フェルナンド・バエス・ソーサ殺人事件」解説|アルゼンチン全土を揺るがせた“50秒”とは?

50秒の波紋: フェルナンド・バエス・ソーサ殺人事件,実際に起きた事件解説 実話・実在の人物を基にした
「50秒の波紋: フェルナンド・バエス・ソーサ殺人事件」(c)Netflix

2020年、アルゼンチンで起きたある事件が、国中を震撼させた。その発端となったのは、たった“50秒”間の出来事。Netflix「50秒の波紋: フェルナンド・バエス・ソーサ殺人事件」は、その短い時間に隠された暴力の構造と、社会全体を巻き込んだ波紋を描き出す。この事件は“ヴィラ・ヘセルの殺人(Crimen de Villa Gesell)”とも呼ばれ、アルゼンチン社会に大きな衝撃を与えた。わずか50秒で、なぜここまでの悲劇が生まれたのか──その理由を探っていく。

  • 2025年/アルゼンチン
  • 原題:50 segundos: El caso Fernando Báez Sosa
  • 監督:マルティン・ロッカ
  • リリース:2025/11/13
  • オフィシャルサイト

事件の概要と「50秒」の意味

事件発生の背景とその瞬間

2020年1月18日未明、場所はアルゼンチン・ブエノスアイレス州ビージャヘセルパルティードにあるリゾート地ビージャ・ヘセル。法学生18歳のフェルナンド・バエス・ソーサは、夏の休暇でこの地に友人と訪れていた。

彼と友人たちはクラブ「Le Brique」に行ったが、そこで小さな口論が発生する。

深夜2時~4時ごろ、バエス・ソーサ側のグループと、ザラテのラグビー部出身の若者たち(“ラグビエール”と呼ばれた)が争いになった。

クラブを出た後、バエス・ソーサは仲間と外でアイスを食べながら待っていたところ、暴行グループに囲まれ、複数人から蹴る・殴るなどの暴行を受け、検死では「多発性頭部打撲」による神経性ショック死とされている。

ドキュメンタリーが描く「50秒」の意味

タイトルにある「50秒」とは、被害者が地面に倒れた後、加害側の暴行が終わるまで約50秒間続いたとされる動画映像の断片を示しており、この“短時間ながら致命的な暴力”の瞬間が本作の核心だ。

情報では「若者の集団から暴行を受け命を落としたフェルナンド・バエス・ソーサ。その一部始終を収めた動画は拡散され、アルゼンチン全土に衝撃を与えた」と紹介されている。

このドキュメンタリーでは、単に暴行の映像を追うだけでなく、被害者・加害者の背景、社会構造(階級・人種)、メディアの反応まで含めて“なぜこの暴力が起きたのか”を探る視点であることから“誰が見ても他人事ではない”問いかけがなされる構成となっている。

社会に残した問いと影響

階級・人種・若者文化の暴力

Wikimedia Commons/“Justicia por Fernando – asesinado en Gesell” © Argentina.gob.ar (CC BY 4.0)

この事件では、被害者バエス・ソーサがパラグアイからの移民の両親を持ち、ブエノスアイレス市内で育った優等高校生という背景がある一方、加害者たちは裕福な出身でラグビー部所属の若者という構図があった。

裁判での証言やメディア報道では、「negro de mierda(黒いクズ)」という人種差別的な罵声が飛んだともされ、暴力が“階級・人種・若者文化”の複合的な文脈で起きたという分析もなされている。

Netflix「50秒の波紋: フェルナンド・バエス・ソーサ殺人事件」は、単なる“ナイトクラブ暴行事件”ではなく、ラグビーというスポーツ文化、若者の集団暴力、SNSでの拡散、そして社会が抱える見えない差別や階級意識の一断面を切り取っており、その意味で私たちに問いを投げかけてくる。

メディア・司法・社会が抱えた課題

本事件はアルゼンチン国内において大きなニュースとなり、クラブ前の映像がSNSや報道で拡散されたことで「証拠映像の力」が改めて注目された。裁判は2023年2月6日、5名に終身刑(アルゼンチンでは50年相当)判決、3名に15年刑が確定。

裁判所は、判決理由として「複数の加害者が被害者を無防備な状態で殴打し、生命を奪う意図が明らかであった」と判断しており、単なる“喧嘩”ではなく“計画的・集団暴行”として位置づけられている。

また、メディアの報道スタイルや司法手続きにおける「公平性」の視点も議論を呼んだ。事件を通じて「ラグビー少年たち」「移民の子」「クラブ出入りの若者」「SNSで拡散された映像」といったキーワードが重なり合い、社会の“見えざる階級構造”と“暴力の構造”が浮かび上がった。

この作品は、私たちが普段見過ごす「夜の街」「若者文化」「集団行動」「階級ギャップ」の暗部に光を当てており、「私たちの社会には何が欠けていたのか?」という反省を促す。

ポイント

「50秒の波紋」は、私たちの社会構造が生み出す“瞬間の暴力”を映像と証言で浮かび上がらせる作品だ。視聴する際には以下のポイントを頭に入れておくと、より深く楽しめるかもしれない。

  • 暴行そのものよりも、暴行が起きた“環境”や“構造”に注目。
  • 被害者・加害者それぞれの背景、階級・人種・スポーツ文化という文脈に意識を向ける。
  • 映像やSNSで拡散される“瞬間”がどう社会の記憶となるか、メディアや司法の動きを追う。
  • 「もし自分の近くで似たような場面が起きたら…」という問いを持ってみる。

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「50秒の波紋: フェルナンド・バエス・ソーサ殺人事件」©Netflix

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