【ザ・バンカー】は、1950年代から1960年代にかけて黒人の地位を確立すべく奮闘した2人の黒人男性の半生を描いた史実に基づいた物語です。登場する2人の黒人男性は実在する人物であり、黒人というだけで家を持つことも融資を受けることも叶わなかった時代を変えようと白人優位な社会と闘う姿を描いています。
登場人物 / キャスト
ジョー・モリス役 / サミュエル・L・ジャクソン

登場人物
多数の不動産を持つ資産家の黒人男性。
鋭い洞察力や優れた頭脳を持つ反面、プレイボーイな性格でもあります。
キャスト情報
●サミュエル・L・ジャクソン(Samuel L. Jackson)
●アメリカ・ワシントンD.C.出身
●1948年12月21日生
●出演作
- 【パルプ・フィクション】(1994)
- 【トリプルX】(2002)
- 【キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー】(2014)
●受賞歴
【ジャングル・フィーバー】(1992)
- 第44回カンヌ国際映画祭コンペティション部門助演賞
【ジャッキー・ブラウン】(1998)
- 第48回ベルリン国際映画祭銀熊賞
バーナード・S・ギャレット役 / アンソニー・マッキー

登場人物
黒人でも社会で成功したいとのアメリカン・ドリームを幼少期から抱く黒人男性。
非常に真面目な性格で、どんな複雑な計算も即座に暗算してしまうほどの優れた計算能力を持っています。
キャスト情報
●アンソニー・マッキー(Anthony Mackie)
●アメリカ・ルイジアナ出身
●1978年9月23日生
●出演作
- 【ハート・ロッカー】(2010)
- 【キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー】(2014)
- 【アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン】(2015)
●受賞歴
【ハート・ロッカー】(2010)
- ワシントンD.C.地域映画批評家協会賞WAFCA賞ベストアンサンブル
- ゴッサムアワードベストアンサンブルパフォーマンス
- ブラックリール賞最優秀助演男優賞
- アフリカン・アメリカン映画批評家協会最優秀助演男優賞
【Night Catches Us】(2010)
- ブラックリール賞最優秀俳優
【デトロイト】(2018)
- アフリカン・アメリカン映画批評家協会ベストアンサンブル
マット・スタイナー役 / ニコラス・ホルト

登場人物
ギャレットの友人の友人。
ビジネス初心者でありながらもギャレットとジョーの教えをたった1ヶ月で習得したり、複雑な計算を丸暗記するなど潜在能力の高さが特徴的です。
キャスト情報
●ニコラス・ホルト(Nicholas Hoult)
●イングランド・バークシャー出身
●1989年12月7日生
●出演作
- 【アバウト・ア・ボーイ】(2002)
- 【X-メン】シリーズ(2000-)
- 【マッドマックス 怒りのデス・ロード】(2015)
●受賞歴
【アバウト・ア・ボーイ】(2002)
- フェニックス映画批評家協会賞最優秀新人賞
- オンライン映画&テレビ協会最高の若手パフォーマンス
【ウォーム・ボディーズ】(2013)
- ティーンチョイスアワードチョイスブレイクアウト
【女王陛下のお気に入り】(2019)
- 批評家チョイス映画賞最高の演技アンサンブル
ユーニス・ギャレット役 / ニア・ロング

登場人物
バーナード・S・ギャレットの妻。
どんな時でもギャレットを支援し続ける献身的な妻ですが、もし彼が失敗しても自分が稼げばいいという男勝りの一面もあります。
キャスト情報
●ニア・ロング(Nia Long)
●アメリカ・NY出身
●1970年10月30日生
●出演作
- 【メイド・イン・アメリカ】(1993)
- 【ビッグママ・ハウス】(2001)
- 【NCIS:LA 〜極秘潜入捜査班】(2017-18)
●受賞歴
【The Best Man】(1999)
- イメージアワード映画の傑出した女優
- ブラックリール賞主演女優賞
【サード・ウォッチ】(1999)
- イメージアワードドラマシリーズの傑出した女優
【最高の贈りもの】(2013)
- アカプルコブラックフィルムフェスティバル最優秀女優賞
- アカプルコブラックフィルムフェスティバルベストアンサンブルキャスト
黒人に人権のない時代 (ネタバレ解説)
夢すら持てない黒人たち
白人優位に作られた社会では、黒人というだけでビジネスチャンスすらない時代でした。
そんな中でもアメリカン・ドリームを胸に抱き、起業意欲に燃える1人の黒人少年がいました。
銀行の前で靴磨きの仕事をするバーナード・S・ギャレットです。
彼は銀行で取引する白人ビジネスマンたちの会話を盗み聞きしてはメモを取り、儲かるためのノウハウを得ようと必死でした。
どんなに両親から無謀だとバカにされようが、決してギャレットは燻る野心を捨てようとはしませんでした。
1954年、愛する妻と息子を持つ一家の主人となったギャレットは、ついにアメリカンドリームを手にすべく不動産業への参入を決めます。
黒人にとってはかなりハードルの高い業界ではあるものの、だからこそ黒人であるギャレット自身が成功することに意味があると考えてのことでした。
やっとのことで白人の共同出資者を見つけ事業も軌道に乗り始めた矢先、その共同出資者が亡くなってしまいます。
新たな黒人パートナーとの再出発、”白人の城を乗っ取る”
さらにギャレットは知人の白人青年であるマット・スタイナーも新たなパートナーとして迎え入れ、彼に会社の顔として働いてもらうことに。
これはレッドライニングに対抗するためにギャレットが編み出した作戦でした。
レッドライニングとは
金融業界用語の1つであり、金融機関が低所得帯の黒人の居住区を”融資リスクが高い”として赤線で囲み、融資対象から除外するというもの。
ギャレットはこれを逆手に取って白人の居住区に黒人を住まわせ、そもそもレッドライニングが成立しないよう考えたのです。
そのために必須となる白人パートナーにマットを迎え入れ、ギャレットとジョーはビジネスに必要な知識やゴルフなどを叩き込み、たった1ヶ月で素人だったマットを一流のビジネスマンへと仕立て上げてみせました。
準備が整ったギャレットたちは白人たちの居住区や銀行を買い上げ、黒人の地位を確立すべく奮闘します。
異なる立場が生み出す差別
1960年代に突入すると、不動産や金融業に根付いていた黒人差別にも少しずつ変化が見られるようになっていきます。
公民権運動が活発化したこともあり、これまでのような白人優位な社会にもメスが入り始めたのです。
そこでギャレットは未だ保守派が色濃く残る地元テキサスに戻り、街の中核を担う銀行を買い上げて黒人にも暮らしやすい街づくりを始めます。
ギャレットたちの事業は成功を収めていましたが、それぞれの異なる立場が思わぬ亀裂を生んでしまいます。
差別意識のなかったマットがキャリア欲しさにギャレットたち黒人を追い込んでしまったり、貧困層だったギャレットと富裕層のジョーの価値観の違いなどが浮き彫りになっていきました。
それはギャレットたちのビジネスにも多大な溝を生んでしまうことになったのです。
法廷の証言台へと立ったギャレットが語ったこととは⁉︎
黒人差別における時代背景
黒人差別の歴史
近年では”ブラック・ライヴズ・マター(通称:BLM)”という黒人差別の撤廃を訴える活動が盛んとなり、未だアメリカ国内に残る人種差別が明るみとなった瞬間でもありました。
こうしたアメリカの黒人差別の歴史は古く、アメリカがイギリスの植民地だった時代から続いています。
アメリカが独立して合衆国となってもなお 黒人の奴隷制度は続き、1865年の南北戦争が終わるまでの約90年間は憲法でさえも奴隷制を認めていたのです。
【ザ・バンカー】の舞台となった1930年代から1960年代はまさにその最中であり、さらにはジム・クロウ法によって黒人分離の社会が作られていました。
1870年代から1964年の公民権法が制定されるまで続いた黒人分離の州法であり、バスなどの交通機関から学校等の公共施設が白人用と黒人用に分離されていた。
また、この頃のアメリカはKKK(白人至上主義団体クー・クラックス・クラン)が、政治家の会員を有するほど強い勢力を持っていました。
ギャレットたちの生きた黒人革命時代
第二次世界大戦後のアメリカでは黒人差別に関する法律や憲法が改正されていき、中でも1950年代の著しい変化は”黒人革命”と呼ばれるようになりました。
これまでは白人用と黒人用で分離されていた学校も教育上の隔離は違憲だとの判決が下り、黒人も白人と同様の教育を受けることが可能となりました。
そもそも白人と黒人には収入格差があるため黒人用の学校を維持すること自体が難しく、これによって人種間の学力差にも開きが出ており、差別の再生産が繰り返されていた。
キング牧師を筆頭とする非暴力的抗議の公民権運動が功を成して、ついに連邦議会は1964年に”南北戦争以来の画期的な黒人救済処置”と言わしめる公民権法を制定したのです。
公民権法では投票権や雇用などでの人種差別を禁じ、初めて黒人も白人同様の人権を手にしました。